Interview vol.2 吉田すみれ/すみれ農園 園主
農業と神楽で紡ぎ継ぐ、古里の原風景。
縄文から弥生へ。稲作主体の農耕文化が定着するにつれ、五穀豊穣や豊作を祈念・感謝する神事や祭が行われるようになり、農業と信仰は密接な関わりを持つようになっていった。
神前で歌舞を奏する「神楽(かぐら)」も、招魂の鎮魂や自然の恵みに感謝する心から生まれた農耕儀礼に由来する。こうした各地の文化風土に育まれ、受け継がれてきた里神楽などの民俗芸能も、都市部では多くが失われつつあり、山間地農村部においてさえ、いまや高齢化著しく継承が危ぶまれている。
上京し就職、都会生活を経て、故郷・合馬(北九州市)にて一転、農業を志した吉田すみれさん。自然に寄り添う野菜づくりに精励する傍ら、地元に伝わる『合馬神楽』にも参加。農を通じて神楽の真髄に触れる、そのパワフルな日常にフォーカスした。
知識も経験も道具も、ゼロからの就農。
――― 『すみれ農園』のオンラインショップやSNSを拝見したのですが、年間を通してずいぶん多品目の野菜を手がけられているんですね。
そうですね。時期ごとに種類は変わるんですけど、ヨーロッパやアジア生まれの野菜、日本の伝統野菜など、スーパーにはあまり並ばないようなものを中心に年間約150品目ほどの季節野菜を、農薬・化学肥料・除草剤を使わず栽培しています。
東京暮らしの頃から、いろいろな変わった野菜に興味があって、合馬に帰ったらつくってみたいなと思っていたんです。
合馬という地域はたけのこが名産で、竹林管理をしている生産者さんは多いんやけど、野菜農家は意外と少ないんです。私の実家も農家ではありません。2018年に帰郷した際、親戚から耕作放棄地となっていた土地を借りることができたので、ひとりで起農しました。
といっても、それまで農業を学んだ経験もゼロ。独学で試行錯誤を繰り返しては「ここの地質は合わんやったね」「次はこっちでいこ」と切り替えながら挑戦し続けているという…当初はまったくのど素人が場当たり的に始めた農業でした(笑)。
―――それで9反(2700坪)もの農地をひとりで手がけているのがスゴい!(笑)
ですよね(笑)。地元のおっちゃんたちが「すみれが農業始めたらしいよ」と聞きつけ、「ここ使え」と声をかけてくれ、最初は3反(900坪)からのスタートでした。
合馬は谷あいの立地で、季節によって日当たりや水はけ、土壌の良し悪しなど様々で、栽培の条件がそれぞれ異なるんです。その環境に合わせて農薬・化学肥料を使わず栽培するとなると、連作障害が出ないよう植え付けの位置も変えなくてはならないので、広さを確保したくなります。周りに耕作放棄地がたくさんあるので、勧められるまま借り増していくうちに広がっちゃいました(笑)。
―――場所を変えながらと言っても、自然だのみの農業でそれだけの農地を世話するのは、日々相当な労働量ですよね。すみれさんの1日はどんな感じですか?
夏場は早くて4時30分から畑に出て、11時30分ぐらいまで作業。日中は暑くなるので、昼休みはゆっくり昼寝などして、16時から暗くなるまで再び畑で作業をします。夜は翌朝納品する収穫野菜の処理や仕込みなどで22時ぐらいまで何やかやしてますね。その時期ごとの日の出日の入りに合わせて働くという感じです。
―――都会暮らしとは、かなり一変したんじゃないですか?
まったく変わりました!東京では、最初に就職したコンサル会社でブラックの洗礼を浴びて体調を崩した後、ご縁あってバリバリの外資系企業に転職。多国籍!ポジティブ!グローバル!という環境でのびのびと自由に働いていたし、夜遊びシーンも満喫したりと、いわゆる“パリピ”な生活でした(笑)。そのギャップはかなり大きかったですね。
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