Interview vol.1 長谷川啓/治療家・楽器作家・木こり


圧倒的なリアルを生き抜く「野生性」。


 コロナ禍により、私たちのさまざまな社会活動は、急速かつ強制的にパーソナルなオンライン化が進展した。こうした流れは、自身のリアルな活動をどのように変化させ、「身体」にどのような影響をもたらすのだろうか。

 農業による生産から工業化・情報化へと移り変わったように、ITやAIなど先端のデジタル技術を通して、より多様な“ポスト身体的”環境が今後ますます生まれていく。
 そうした「脱身体」の流れに対し、「圧倒的リアルが支配する山では、剥き出しの我が身があるだけ」と語る長谷川啓さん。治療家として人の身体・心と向き合い、身近な自然の素材から楽器を作り演奏し、木こりとしても循環社会の一翼を担う、その視座と生き抜く哲学についてお尋ねした。


長谷川啓 鍼灸・あん摩マッサージ指圧師/グランジ工房 楽器製作/木こり etc.

Profile

1976年生まれ 名古屋市在住。
とにかく体調最悪だった10代前半〜20代前半 暗黒の10数年
薬に頼れば数値は変わる 体調も変わる
が やめればまたもとのモクアミ 根本的には何も解決していない
一生薬漬けなんてまっぴらゴメンだ
根本とは何かと考えたとき カラダにたどり着いた
カラダと向き合おう とことん向き合おう いっそのことカラダのプロになろう
なんとか出来たらそれで食っていけるだろう
15で治療家を志し以来30年 体操 カポエイラ 気功 武術 ヨガ 伝統医療 音楽
カラダと向き合い続けたら ココロに突き当たった
言葉でカラダは変わり得る 身体からココロは変わり得る
そんな手応えを確かにする今
日中は山で木をきり 日が暮れれば整体師 休みの日には楽器を作り奏で遊ぶ
整体師・楽器作家・木こりetc… 三足以上の草鞋をとっかえひっかえ
どれが本職かと問われれば どれも本職 どれも同じこと 表現の仕方が違うだけ
全ての技の根本は同じ 全ての技の目指すところもまた同じ

太鼓作りを通して伝えたいこと。


『グランジ工房』では、主にどんな太鼓を作っていますか?

 ブラジルの太鼓「アタバキ」や「パンデイロ」、アフリカの「ジャンベ」など、その他手に入る皮など素材、オーダーによっていろいろだね。アタバキは、キューバのコンガとよく似た細長い樽のような形で、ヘッドには牛や山羊の皮を使うことが多い。民族楽器の多くは、野生動物よりも生活に身近な牛や山羊を使いますね。


家畜などの皮が多いのでしょうか。

 そう。野生動物の皮はいつ手に入るかわからないけど、家畜なら安定供給できるからね。

 ブラジルでは、テヘイロ(信仰の場)に集まり、音楽を奏でるカンドンブレ(民間信仰)の儀式があり、太鼓は彼らにとって先祖の魂を降ろしてくる神聖な道具。皆それぞれ環境に応じた素材を使い、好きな音で楽しむわけ。

 ところが日本で同じ民族楽器を作ろうと思うと、まず素材を輸入しなくちゃならない。たしかに今時は金さえあれば世界中から何でも手に入る時代だけど、それってなんか違うよね?アフリカやブラジルの太鼓とは違っても、あるものを使えばいいんじゃない?「此処には此処からしか生まれない音」があるはずだし。

 獣害対策で処理された猪や鹿などの野生獣肉(ジビエ)の皮も、捨てられてしまうんなら、太鼓作りに使えばいいじゃないかと思ったのがきっかけで、『猪鹿工房 山恵 https://inosisi-yamakei.com/ 』(愛知県豊橋市)さんなどに声をかけてもらい、太鼓作りに生かすようになったんです。


―なるほど。そうした繋がりから、長谷川さんはお祭りやイベント、ライブで等で、ワークショップをやったり、パーカッショニストとして演奏に参加されることもありますよね。

 盆踊りで太鼓を叩いたりね(笑)。豊田市が野生獣肉の活用促進事業として山恵さんと開催した「ジビエマルシェin鞍ケ池公園」ではワークショップ、豊田大橋での「橋の下世界音楽祭」ではマッサージやライブセッション等で参加しました。

 いまはスーパーへ行けば、いろんな輸入食材、安い肉から高級食材まで豊富に揃っているでしょう。一方で猪や鹿の肉は、その手間を考えたら十分安価で良質であっても、売れなければ結局廃棄するしかない。獣害は年々増えつつあり、身近にそうした素材があるにもかかわらず、輸入したものを買っているなんて、おかしな話だよね。木材も同じで、適正な伐採で適切な活用と消費循環ができれば、輸入木材に頼る必要もない。

 そうした野生動物、森、人の暮らしとの関係や循環など、まずは身近な山の現状=リアルを知ってもらうことが大切で、楽器作りもそれを伝えるひとつだと思っています。

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