Interview vol.2 吉田すみれ/すみれ農園 園主
「合馬神楽」を通して農と地域と文化が交信する。
―――日本各地で農耕儀礼として始まり、それぞれ地域ごとの伝統芸能として発展した「里神楽」の土着性に興味があります。すみれさんは、農業に勤しむ延長線上で『合馬神楽保存会』にも参加されているそうですね
はい。合馬には、享保年間に疫病退散を祈願したことが始まりと伝えられる『*合馬神楽』があり、毎年9月敬老の日に天疫神社で奉納されます。地元で農業を始めたからには、地元の文化の後継者にもなりたいと思い、2020年から参加しています。
誰かが継承していかなければ消えてしまうのが、伝統文化。私が神楽をやるようになったのも、後継者がいないという理由が大きいです。それまでの最若年が60歳やったんですよ(笑)。場や形だけあっても、人がいて、ちゃんと継ぐ意志がなければ継承されないというのが、土着の良いところでも悪いところでもあり、難しいところでもあるなと感じます。
*合馬神楽(市指定無形民俗文化財)
毎年9月中旬、合馬の天疫神社秋の祭礼に奉納される神楽である。伝承によると、享保年間(1716~1736)村に飢饉・悪疫が続いたおり、村人が他所から神楽を招いて天疫神社に奉納し神意を慰め平癒を祈願したのが始まりという。明治時代に廃絶していたが、明治 38 年頃、京都郡系の神楽から伝授を受け復活させ現在に至っている。
―――農業が信仰や芸能を生み伝え継いできたような地では、農家がなくなることで祭りや文化が途切れてしまうということもありえますよね。
あるんやないかな。神楽に触れてみると、昔の人はちゃんと自然のサイクルに沿って、暦や歳時記のもと祭りや行事を大事に暮らしとったんやなと思いますね。秋祭りの時季に神楽をやるのも、豊作への祈願や感謝を示す奉納やし、その他にも昔の記録を見ると様々な行事があって面白いんです。
あと、合馬の神社では、「おこもり」という何人かで御神酒と御供えを持ってお堂に入り、飲めや食えやで一晩過ごして神様を喜ばせるという慣習があるんやけど、このコロナ禍で開催できなくなってしまって。神様もさぞかし寂しい思いをしてるやろなあと思います。
―――本来の目的を失い、伝統芸能としてだけ残されるものが多くなる中、農業をやりながら、神様に祈り感謝を奉納する神楽を舞うことは本質的な対であり、百姓としての正統なあり方ですよね。
そう思っているんやけど、私が入るまでは男性ばかりで、「女が神楽を舞うなんて穢らわしい」という感覚が根強くあったんですよ。でも継承したいなら今はそういう時代じゃないし、神様も寛容になってくれるんじゃ!と前向きに参加しています(笑)。
舞も今と昔では少しずつ変化しているようで、稽古で「俺のを見とけー」とおっちゃんたちに言われても、みな型は同じなのにそれぞれちょっとずつ舞い方が違ったりして、べーぺーの私は戸惑うことも多々あります(笑)。
地元の小学生たちにも、舞を数種類、楽器の太鼓・笛・擦り鐘などを教えなくてはいけないので、こちらも精進しなくては!
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