Interview vol.3 小岩 秀太郎/(公社)全日本郷土芸能協会常務理事・郷土芸能「鹿踊(ししおどり)」伝承者


『東京鹿踊』を通してつなぎたい、森羅万象の未来。


東北出身者と首都圏在住者が芸能でつながる『東京鹿踊』では、どんなプロジェクト、活動をされていますか?

 立ち上げたのは、東日本大震災後の2013年。私と同じように「地元には帰らないだろう」という思いで関東などに出てきた人たちが、震災によって強制的に、あるいは親の高齢化や後継といった理由などで、故郷と向き合う時期が来てしまった。そうして地方出身者が地元に目を向けた時、子供の頃に鹿踊に関わっていたことで、あらためて関わり直せたり、ふと思い出してもう一回やり直したい、自身のルーツを見つめ直したいという同郷の出身者が周りに多かったんです。

 そういう人たちと一緒に、鹿踊を通じてまずは体現してみよう、語り合っていく場として発足しました。

 踊りの習得が目的ではなく、「地方(故郷)と行き来する」ということもコンセプトにしているので、出身者も地元の人も、そこに関心を持ち関わる人も、活発に行き来して、人を集めて活動できる機会を一緒に作っています。

今回『月灯りの移動劇場』の新作に向けて、浅井やメンバーも全国各地の地域の芸能をリサーチして巡り、いろいろとお話を聞かせていただきました。

 そうなんです。地方に人が少なくなりつつある今、浅井さんたちのように各地での郷土芸能や民俗芸能のリサーチを通じて、その中に入ってお手伝いをしたり関わっていくというやり方が、これからの地域の文化継承のひとつのあり方に確実になっていくと思います。

 地域文化には、単に踊りを踊ることだけではないさまざまな要素がたくさんある。たとえば「鹿」ひとつをとってみても、食べるものであれば食文化に、生態系が変わり獣害があれば資源保護、素材とすれば革製品やわらじなどの職人…というように多岐にひろがっていく。そう考えれば、郷土芸能を通して地域文化や社会にも多角的な視点をひらくことができます。そもそも、踊るためだけに鹿踊が生まれたわけではなく、やはり多角的な意味合いと関わる人々によってつくられたものでしょうしね。

次代への継承を考える時、これからの活動のあり方をどう考えていますか?

 やっぱり、継承しようという意識のある人を見つけることと、活動を「やめない」ということが大切ですね。せっかく次へとつなぐ意識を持てたのに、続ける場所がなかったり、それを体現・表現する場所がなくなってしまえば、芽生えてきたものも育たなくなってしまいますから。

 東京鹿踊やコーディネーターとしての活動を通じて、郷土芸能の多様性や多角的視点でより活発に話し合えたり、プレゼンテーションできる仲間や場づくりが必要だと思っています。

 コーディネーターを務める一般財団法人 地域創造の『公共ホール現代ダンス活性化事業 (ダン活)  』では、浅井さんにも初めて登録アーティストとして各地の皆さんと作品作りに取り組んでもらうプログラムを実施しますし、とても楽しみです。コンテンポラリーダンスを通じて、郷土芸能への関心がさらに拓かれていくことにも期待しています。


Shutaro Koiwa at TEDxTohoku


●その土地に根づいてきた「本来の踊り」は、自然、暮らし、社会など多角的なブリッジの役目を果たしてきた。文化が成熟し、踊りがダンスとして舞台芸術へと昇華していく中で見失われがちな“ひろがり”を、コーディネーターの目線から縦糸横糸で結ぶ、小岩さんの活動。互いに対話交流する中で、異なるジャンルに見えていたコンテンポラリーダンスと土着の芸能が拠りあい、未来への糸結びとなることに期待したい。

(聞き手 浅井信好/取材・文 岩田舞海)

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